人事制度の概要
基本的な人事制度のしくみ
人事制度は、経営資源の中で最も重要な「人材」のマネジメントにおいて、経営目標・方針・戦略と直結したトータル・システムとして構築されます。また、人事制度は、下記のように等級制度(基本処遇制度)、賃金制度、人事考課制度、人材育成(能力開発)制度のサブシステムから構成されます。
- 等級(基本処遇)制度:人事処遇の基本となる社内の等級(資格)制度
- 賃金制度:等級制度に基づき社員の賃金を決定するための制度
- 人事考課制度:一定期間の社員の行動や成果を評価する仕組みを定めた制度。
- 人材育成(能力開発)制度:会社が求める社員の能力を戦略的・計画的に高める制度
等級制度
等級制度とは、社員に期待する能力(人)・職務(仕事)・役割等により社員をいくつかの階層に区分する制度をいいます。等級に区分するための根拠である能力(人)・職務(仕事)・役割を「基軸」といいます。等級制度の代表的なものとして、次のように、「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」の3つがあります。
これらの制度の普及状況を概観しますと、1960年代後半頃から大企業においては自社の社員を保有する職務遂行能力をベースに職能資格にランクをつけ、この職能をベースとした「職能資格制度」が定着するようになりました。しかし、高度成長期に導入された職能資格制度も長年にわたる運用の過程で変質を遂げ、1980年代後半頃より職能給の年功的運用への批判が高まってきました。
1990年代以降は、社員の処遇を職務(仕事)や役割の大きさをベースにする「職務等級制度」「役割等級制度」を導入する企業が現れました。現在は、社員処遇の基軸は「職能主義」あるいは「職務・役割主義」を会社の事情に応じて選択する時代になりました。「職能資格制度」と「職務・役割等級制度」を併用する、あるいは一般社員は「職能資格制度」、管理職は「職務・役割等級制度」を採用するようなハイブリッド型の事例も見られるようになりました。
職能資格制度
職務を遂行するのに必要な能力(職務遂行能力)を相対的に序列化して体系化した制度です。「職務遂行能力(職能)」を等級制度の基軸とし、職能資格制度のフレームを作るのが一般的です。
職能資格制度では社員の職能の伸長度・発展度に応じて処遇が決定されることになります。「経験年数と昇格要件」を示しておき、それらを充足した者を対象に上位等級に昇格させます。
職務等級制度
職務評価に基づき職務ランクを序列化して体系化したものです。職務価値の大きさに応じた処遇となるよう社内の職務ランク(レベル)を一覧表にまとめた職務レベル表を作成するのが一般的です。
昇格や異動は、基本的に職務(ポジション)に欠員が生じたときに実施されます。
役割等級制度
役割のタイプと大きさに応じて体系化したものです。担当する業務上の「役割」に応じた処遇となるような役割等級基準書を作成します。
賃金制度
賃金制度とは、等級制度に基づき、社員の賃金を決定するための制度です。賃金は月例給とその他(賞与、退職金等)から構成され、月例給は基本給と諸手当から構成されます。
基本給の代表的なものは、以下のとおりです。
- ア 職能給:職務遂行能力の発展度に応じて決定される給与のこと
- イ 職務給:職務の大きさに応じて決定される給与のこと
- ウ 役割給:役割の大きさに応じて決定される給与のこと
高度成長期は、自社の社員を保有する職務遂行能力をベースに職能資格にランクをつけ、この資格に対応する形で給与を決める「職能給」が主流でした。1990年代後半以降、「職務等級制度」「役割等級制度」の導入に伴い、職務の大きさや役割に応じた「職務給」「役割給」へ改定するケースが増えています。
1960年代に日本で発案された「ジャパニーズ・スタンダード」な職能給から、外資系において採用されてきた職務給へ、或いは、昨今の役割重視のトレンドに対応して導入が進んでいる役割給への改革が進んでいます。
成果主義賃金の典型
成果主義賃金の典型例は、個人成果(=担当職務の重要度×担当職務の達成度)により、賃金を決めるタイプです。しかし、一般的には、個人成果に加えて職務行動の内容や職務遂行能力等も反映する人事考課の結果を強く反映させて決める賃金のことを成果主義賃金と呼んでいます。その特徴は、(1)賃金と人事考課との連動強化、(2)自動的昇給の縮小・廃止、(3)年功的賃金の縮小・廃止、等です。多くの企業の成果主義賃金の事例をみると、個人成果だけで賃金を決めるという例は少なく、個人成果を得るための職務行動や職務遂行能力を総合評価して、賃金と結び付けているのが一般的です。
年俸制とは
成果主義賃金の代表的な賃金制度として、年俸制があります。年俸制は、過去1年間の業績を評価して、翌年1年間の賃金総額を事前に決定するもので、毎月その一部を支給する賃金制度のことです。年俸制の適用対象者は、管理職と契約社員のケースが多く、一般社員に適用する場合は、残業手当の支給が必要となってきます。
業績連動賞与
業績連動賞与のねらい
1990年代末頃から、賞与を営業利益等で示される企業業績と連動させようとする動きが強まりました。そのねらいは、賞与支給額を企業業績と連動させることにより企業経営の安定化を図ることにあります。また、企業業績の向上が賞与の増大につながることから、企業業績向上への社員の意欲を高めることとなります。賞与が企業業績に連動して決まるようになると、労使交渉も自動的になくなることになります。
業績連動賞与の典型
全社業績連動型賞与制度の典型的な構造をみると、「固定賞与+変動賞与」となっています。固定賞与とは、企業業績がどのような状況であろうが、必ず支給する賞与のことです。変動賞与の部分が、企業業績と完全に連動する部分です。変動賞与が青天井の企業もありますが、支給率の上限を設定する企業も少なくありません。
部門業績連動型賞与とは
部門業績連動型賞与とは、部門毎に部門業績と部門社員の賞与を連動させようとする制度です。企業内には多数の部門がありますが、それぞれの部門で社員が賞与総額を増やそうとして部門業績が高まれば、結果として会社の業績は高まることになります。しかしながら、次のようにいくつかの問題があります。
- 部門によって有利不利が発生しがちであること。
- 不利な部門で働く社員の士気が低下する恐れがあること。
- 部門間の異動を難しくすること。
従って、制度を導入するとしても、部門業績型連動賞与を大きくできないのが実態です。
人事考課制度
人事考課の目的
人事考課の目的としては、主に次のようなものが挙げられます。
- 会社として、ビジョン実現、目標達成、戦略実行のために必要な人材育成をするためのツールとして活用する。
- 上司と部下が共に活用することで、目標達成し、成長するための機会とする。
- 公正かつ納得性のある人事管理(昇給、昇級、賞与など)を運営する。
考課基準
考課基準を明確にするため、考課項目毎に各等級に求められるレベルを示す考課基準表を作成します。
職能資格制度における人事考課
「能力(保有・潜在能力)」、「意欲(執務態度)」、「成績(業績)」の区分をし、それぞれ考課項目が設定されるのが一般的です。
- 能力考課:知識・技能、判断力、企画力、実行力、指導力等
- 意欲考課:規律性、責任感、積極性、協調性等
- 成績考課:仕事の量、仕事の質、業務改善等
実際の考課は、人事考課表(人事考課シート)が使用され、考課項目ごとに、3~10段階(S/A/B/C/Dの5段階が多い)で行うのが一般的です。
職務・役割等級制度における人事考課
職務・役割に対応した「成果・業績」(パフォーマンス)と「発揮能力」(コンピテンシー)により行われるのが一般的です。
業績考課(目標達成度考課)
目標管理(MBO=Management By Objectives and self-control)とは業務上の目標を自ら設定し、その目標達成に向けて努力するとともにその結果について考課を行う手法です。目標管理シートを使用し、期初に設定した目標に対して期末に達成度を評価します。
発揮能力(コンピテンシー)考課
「コンピテンシー(成果につながる行動)」とは、高い業績を挙げている者の行動特性のことを言います。自社の高業績者に共通の行動特性を明らかにして、考課基準として活用することになります。次のようなコンピテンシーが代表的なものです。
項 目 | 定 義 |
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リーダーシップ | 環境や状況の変化を先取りし、変化を会社や組織の業績向上に繋げるよう、革新的で自発的な行動をとる。 |
顧客志向 | 社内外の顧客ニーズを察知して、何が求められているかを理解する。顧客満足を最優先して、期待を上回る行動をとる。 |
コミュニケーション | 相互理解のために様々な手法を用いる。信頼関係が構築できるよう、明確ではっきりとしたコミュニケーションを行う。 |
チームワーク | チームの目的や目標・課題を達成するために相互支援を実践する。 |
人材育成(能力開発)制度
人材育成基本方針
会社が戦略的に人材育成に取り組むためには、まず人材育成基本方針を固めることが必要です。人材育成基本方針に示される人材像は、人材の育成や活用についての柱となります。また、能力開発規程を作成し、人材育成の目的や基本方針を定めておくとよいでしょう。
人材育成の手法(OJTとOff-JT)
OJT
「On the Job Training」の略で、読んで字のごとく、仕事をやりながら育成を行う手法です。メンター(OJTリーダー、エルダー、トレーナー等組織により名称が異なる)から業務を通じて知識の習得と仕事の進め方を学ぶ「メンター制度」を取り入れるケースが増えています。
主に新入社員を対象とする定着と戦力化の手段であって、先輩社員が新入社員等の後輩社5員に個別に付き、仕事の基礎知識、スキルの伝授、職場内外での悩みの相談を行い、定着と戦力化を目指すものです。その際、ツールとしてOJT計画書(新入社員OJTカリキュラム)を活用するケースが多いです。
OFF-JT
Off-JTは「Off the Job Training」であり、仕事から離れたところでの育成で、主に集合研修などがこれに該当します。教育研修基本方針を定めたうえで、教育研修体系を構築するのがよいでしょう。