人事制度の運用
人事考課(評価)制度の運用
公正な人事考課の必要性
能力主義や成果主義の賃金を実践するためには、定期的に社員の働き振りを評価する制度が必要となります。それが、人事考課制度です。公正な人事考課を実施して、その結果を賃金に結びつけることによって、能力主義や成果主義の賃金が実現できることになります。公正な人事考課の実施のためには、きちんとした制度を作ることです。制度を作ることにより、評価基準が明確となり、社員の全てを共通の基準で評価できることになるからです。
人事考課基準の設定
通常、評価基準は、能力評価、情意評価、業績評価の3種類の基準を用意して実施することになります。能力評価というのは、業務を進めていくうえで必要となる知識や技能の評価のことです。情意評価というのは、所属している組織や上司・同僚への協力を通じて、間接的に企業活動に貢献する側面を主として評価すると言ってよいでしょう。すなわち、分担した仕事を積極的に責任をもって遂行しているか、チームワークを重視して仕事をしているか、といったところです。業績評価では、担当業務において、企業の期待している成果を上げたかどうかを評価します。目標管理制度を導入している企業では、目標達成度を利用して業績評価を行うケースが多いようです。
コンピテンシー評価
従来から行われている能力評価を改善するために、コンピテンシー評価を取り入れる企業が増加してきています。コンピテンシー評価では、現実の仕事ぶりを見て、それを通して能力の有無や水準を評価しようとするものです。職務行動能力評価と表現することも可能です。コンピテンシー評価を人事考課に取り入れるには、能力評価基準を、「~しているか」という表現に改めることです。たとえば、指導能力についての従来の能力評価では「部下を適切に指導できるか」という表現でしたが、「部下を適切に指導しているか」という表現にすればコンピテンシー評価に対応する評価基準となります。
公開主義とフィードバック
多くの企業のこれまでの人事考課は、どのような基準で評価をするかを明らかにしない、人事考課結果を本人に伝えない、という秘密主義でした。しかし、能力・成果主義賃金を実践していくのであれば、人事考課結果が直接賃金に結びつくのですから、社員はどのような基準で人事考課が行われ、どのような評価結果であったかを知らないと、決定された賃金に対して納得することができません。また、社員は人事考課の基準や考課結果を知ることで、どのような能力を高めればよいのかがわかり、社員の能力向上にも寄与します。企業が能力主義や成果主義の賃金を指向するのであれば、人事考課制度の内容と評価結果は公開しなければなりません。
目標管理制度とその運用
目標の連鎖体系
社員の業績は、目標管理制度によって把握し、評価するのが一般的です。目標管理制度では、経営トップにより、まず、今後1年間の企業目標が定められます。その企業目標を実現するために、企業を構成する各部門の果たすべき 役割をはっきりさせます。それが、それぞれの部門の今後1年間の部門目標となります。部門目標が明らかになりますと、部門を構成する部の目標が明らかにされ、次いで部を構成する課の目標があきらかになります。本来の目標設定においては、まず経営理念があって、それに基づき中期的な経営計画を作成し、中期経営計画を基礎として今後1年間の企業目標を決めることになります。
目標設定の仕方
どの段階においても、設定する目標は、上司と部下との間で相談して決めることになります。目標設定の基本は、期末に達成度の評価ができるような目標を設定することです。達成度が評価できるようにするには、目標が数値であると便利です。そこで、可能な限り数値化する努力が必要です。もう一つ重要な点は、目標の難易度の判定が難しいということです。目標の難易度がわかりませんと、低い目標を設定して、高い達成度評価を受ける人がでてきます。そこで、難易度を測定することが必要となります。一つの方法は、「委員会方式」で判定する方法です。目標の難易度が測定できるとするならば、「難易度×達成度」を最終的な達成度の評価とすればよいでしょう。
中間面接と期末面接
上司は、部下に期初に設定した目標の進行状況を確認したり、支援措置の必要度を尋ねたりして、時々状況を把握する必要があります。場合によっては、目標の修正が必要かもしれません。そのような上司による進行状況の把握の場が中間面接と呼ばれるもので、期初から6ヶ月後に設定することが多いようです。目標達成度を評価する期末面接に際しては、事前に部下は自己評価を行う一方、上司も独自に評価をします。それを両者が持ち寄って評価面接を行います。その場は、単に達成度の確認のための意見交換にとどまらず、目標が未達成であった場合の要因分析や将来に向けての工夫・改善などを話し合う場ともなります。
評価能力の高め方
評価力の内容
評価基準の共有
評価の納得性を高めるためには、評価基準を共有することが必要です。第1には、上司と部下の間での共有です。第2には上司間での評価基準の共有です。上司と部下の間での共有は評価結果の納得性を増し、上司間での評価基準の共有は、評価の公平さに繋がるわけです。
評価視点と甘辛のレベル
共有すべき評価基準の内容としては、組織がその構成員に求めることを反映していることが必要です。どのような角度から事実を見るのか(評価視点)と、どのようなレベルの事実を求めるのか(甘辛のレベル)の二つの側面から評価基準が共有されることが必要なのです。
対話力
最後に、上司と部下の対話力が問題となります。評価根拠となる事実の把握や評価基準のとらえ方は上司と部下の対話を通じて共有されます。面接対話がリラックスして率直に行えるかどうかも組織の評価力として大切なものなのです。
評価力の向上(上司として)
制度を知る
まず第1に必要なのは、自社の人事評価の仕組みを知ることです。次のような事柄です。
- 人事評価がねらいとするものが何なのか?
- どんな手続きによって評価が進められるのか?
- 手続き上の弱点は何か?
- 文書化されている評価基準はどこにあるのか?
- 手続き上の弱点とその克服策はどこにあるのか?
評価視点を知る
第2に必要なのは、評価基準です。どんな角度から部下を評価し、どの程度のレベルまでを求めるのかです。
色々な部下をみる
第3に、自分が評価すべき部下と同格の他部門の人をよく観察してください。何人かとの相対比較を行うことによって、評価の視点と甘さ辛さのレベルが安定してきます。
仲間とつきあわす
第4に、評価者の間で、評価の基準をすりあわせて下さい。評価にはどうしても主観が入り込みます。その主観が評価の歪みや偏りに直結しないよう、主観部分の吟味を仲間同士で行います。評価力調整会議を開催するのが最も良い方法ですが、ない場合にも、自分が行った評価を評価者間で情報交換をして下さい。
評価者研修
目的別研修プログラム
目的
評価手続きと評価項目を理解する(半日-1日)
- わが社の人事制度のねらい(講義)
- 人事評価の手続きとルール(講義)
- 評価項目と評価ランクの理解(一般事例-ビデオ事例等)
- 面接対話の基本技術(面接対話の流れとマインド-講義とビデオ)
目的
評価項目の内容を深く理解し、基準を共有する(1泊2日もしくは2日)
- わが社の人事制度のねらい(講義)
- 人事評価の手続きとルール(講義)
- 評価項目と評価ランクの理解(オリジナル事例:社内で評価が分かれそうな事実を取り上げて事例を作成する。できれば職種別の事例が望ましい。)
- 面接対話の考え方(講義)
- 面接対話の技術(講義とロールプレイ)
実施のタイミング
制度改訂時期
ねらい
新しい制度の目的を理解し、実務手続きと重視する価値を分かち合う
内容
旧来の評価の問題点と制度改訂のねらい(講義)
評価視点を確認する事例研究
評価の甘辛を確認する事例研究
主な対話技術のロールプレーイング
新任管理・監督者登用時
ねらい
人事評価制度の目的と職場での使い方を理解し、評価者の立場から人事評価制度を考える
内容
評価者の立場(講義)
人事評価制度の目的(講義)
評価力調整の進め方(講義)
評価視点を確認する事例研究
対話技術のロールプレーイング
人事評価時期
ねらい
評価に迷う点、実務上抱える問題点を確実にツブシながら、評価制度の運用をブラッシュアップする。
内容
全社的な評価の実態(講義)
現場での評価の問題点とその克服策(質疑応答)
評価の甘辛を確認する事例研究
この中で大切にすべきタイミングは毎回の人事評価の時期に確実に評価者研修進めていくことです。その理由としては、
- 人事評価制度を運用に着目して考えると、毎回の評価によって学習がなされ、徐々に本来のねらいにたどりつきやすくなる
- 評価者訓練を通じてライン管理者との対話を行うことによって、人事評価制度の細かな運用ノウハウが積み上げられ、その効果性が吟味できる
- 定期的にそもそもの目的に戻ることによって、現場での評価制度の運用の形骸化を防止することができる
研修用事例の形態
事例のボリューム
- 短編事例:A4×2枚程度で作成します。自社の評価制度と評価項目について理解するための事例としてはこの程度で構いません。評価の甘さ、辛さ等を議論するためには若干情報不足になります。グループ討議の時間も90分程度でこなせます。
- 長編事例:A4×10枚程度で作成します。自社の評価制度と評価項目について理解するだけでなく、評価の甘さ・辛さや評価に迷う点等を事例の中に盛り込めるため、手応えのある事例研修が行えます。グループ討議の時間は120分程度かかります。
事例のメディア
- 文書事例:最も標準的な事例です。可能な限り自社の実在者をもとにして加工したオリジナル事例を用いるのがよいでしょう。
- ビデオ事例:一般的な評価の考え方を学ぶときには事例として使用することができます。ただし、市販のビデオ事例にはなまじ正解がついているために、自社の事情にあわないこともあります。
- コミックス:ビジネスコミックを利用して、自社の評価基準で評価する評価者研修をすることも可能です。